抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「キイトルーダ®」切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫について承認を取得およびHER2陽性・陰性にかかわらず治癒切除不能な進行・再発の胃癌の一次療法への使用が可能に
2025/05/19 15:00 JST
報道関係各位
MSD株式会社
MSD株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:カイル・タトル、以下 「MSD」)は、本日、抗PD-1抗体「キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))」について、切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫の適応を追加する国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得しました。また、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌に関する国際共同第3相試験(KEYNOTE-811試験)の臨床成績に基づく添付文書改訂が行われ、 HER2陽性・陰性にかかわらず 胃がんの一次療法での使用が可能になりましたのでお知らせいたします。
切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫に対する適応拡大について
悪性中皮腫は胸部、腹部、心臓、精巣など、体の特定の部位を覆う膜に発生するがんです。肺あるいは胸腔を覆う膜に発生する悪性胸膜中皮腫は、悪性中皮腫の中で最も多く、80~90%弱を占めるとされています*1,2。悪性中皮腫発生の主な原因としては、アスベスト(石綿)の曝露が知られています。日本では、1950年代から70年代にかけての高度経済成長期にアスベストが大量に使用されました。アスベスト曝露開始から発症までの潜伏期間が25~50年とされていることから、日本における悪性中皮腫の発生ピークは2030年頃で、罹患者数は年間3,000人に及ぶと予測されています*2。また、日本における悪性胸膜中皮腫を含む悪性中皮腫の年間死亡者数は増加傾向にあり、1995年には500人(男性356人、女性144人)でしたが、2023年には1,595人(男性1,312人、女性283人)となっています*1,3。ほとんどの悪性胸膜中皮腫患者さんの予後は不良で、切除可能な段階で診断されるのは10~15%程度です*4。悪性胸膜中皮腫の治療における医療ニーズは依然として高く、今回の適応追加の承認により、新たな治療選択肢を提供することが可能となりました。
今回の製造販売承認事項一部変更承認申請は、海外の多施設共同非盲検無作為化第2/3相試験であるKEYNOTE-483試験および国内の単群多施設共同非盲検非無作為化第1b相試験であるKEYNOTE-A17試験のデータに基づいています。
*1 国立研究開発法人国立がん研究センター 希少がんセンター「さまざまな希少がんの解説(悪性胸膜中皮腫、悪性腹膜中皮腫、悪性心膜中皮腫、悪性精巣鞘膜中皮腫)」
*2 特定非営利活動法人日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む 2024年版」
*3 厚生労働省「都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~令和5年) 人口動態統計(確定数)より」
*4 Goudar RK. Review of pemetrexed in combination with cisplatin for the treatment of malignant pleural mesothelioma. Ther Clin Risk Manag. 2008 Feb;4(1): 205–211.
HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌を対象とした一次療法に関しての臨床成績に基づく添付文書の改訂について
胃がんは日本で3番目に多いがんで、がんの死因で第4位となっています。2020年には約11万人が新たに胃がんと診断され*5、2023年には約3.9万人が亡くなっています*6。胃がんは初期症状がほとんどなく、長年にわたりゆっくり進行することが多いため、進行してから発見されることも少なくありません。IV期の胃がんと診断された患者さんの5年生存率は6.7%*7であり、新たな治療法の開発が喫緊に求められていました。
今回、化学療法歴のないHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃又は食道胃接合部腺癌患者における、キイトルーダ®、トラスツズマブおよび化学療法(カペシタビンおよびオキサリプラチンの併用、または5-FUおよびシスプラチンの併用)の併用療法の有効性および安全性を評価した国際共同第3相KEYNOTE-811試験の結果が、添付文書に追加されました。キイトルーダ®は2024年に治癒切除不能な進行・再発の胃癌の効能・効果で適応を取得しており、添付文書の「効能又は効果に関連する注意」においてHER2陰性の患者に投与することとされていましたが、このたび「効能又は効果に関連する注意」も改訂され、HER2陰性の患者だけでなく、PD-L1陽性が確認されたHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌患者の一次療法としても投与可能となりました。
*5 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)全国がん罹患データ(2016年~2020年)
*6 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)全国がん死亡データ(1958年~2023年)
*7 国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」(2015年5年生存率 ネット・サバイバル)
MSDは、重点分野と位置付けるがん領域で、今後も患者さんと医療従事者のニーズにお応えできるよう努めてまいります。
KEYNOTE-483試験について
KEYNOTE-483試験では、化学療法歴のない切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫患者を対象に、キイトルーダ®、ペメトレキセドナトリウムおよびプラチナ製剤の併用療法の有効性および安全性が、ペメトレキセドナトリウムおよびプラチナ製剤を対照として検討されました。第3相パート(有効性解析対象例440例)の主要評価項目は全生存期間(OS)とされ、キイトルーダ®、ペメトレキセドナトリウムおよびプラチナ製剤の併用療法は、ペメトレキセドナトリウムおよびプラチナ製剤の併用療法と比較して、OSを有意に延長しました。第2/3相パートに登録された安全性解析対象例241例中217例(90.0%)に副作用が認められ、主な副作用(20%以上)は、疲労120例(49.8%)、悪心119例(49.4%)、下痢56例(23.2%)、嘔吐50例(20.7%)および口内炎49例(20.3%)でした。
KEYNOTE-A17試験について
KEYNOTE-A17試験では、化学療法歴のない切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫患者19例を対象に、キイトルーダ®、ペメトレキセドナトリウムおよびシスプラチンの併用療法の忍容性、安全性および有効性が検討されました。ペメトレキセドナトリウムおよびシスプラチンの投与は最大4~6コースとしました。副次評価項目である奏効率 [modified RECIST に基づく治験担当医師判定による完全奏効(CR)または部分奏効(PR)]は、73.7% [95% CI, 48.8%~90.9%]でした。安全性解析対象例19例中18例(94.7%)に副作用が認められ、主な副作用(20%以上)は、悪心16例(84.2%)、便秘12例(63.2%)、貧血11例(57.9%)、倦怠感9例(47.4%)、下痢7例(36.8%)、白血球数減少7例(36.8%)、味覚不全6例(31.6%)、好中球減少症6例(31.6%)、食欲減退5例(26.3%)、しゃっくり5例(26.3%)、肺臓炎5例(26.3%)、好中球数減少4例(21.1%)および発疹4例(21.1%)でした。
KEYNOTE-811試験について
KEYNOTE-811試験は、化学療法歴のないHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃又は食道胃接合部腺癌患者における、キイトルーダ®、トラスツズマブおよび化学療法(カペシタビンおよびオキサリプラチンの併用、または5-FUおよびシスプラチンの併用)の併用療法の有効性および安全性を評価した国際共同第3相試験です。主要評価項目は全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の二つで、キイトルーダ®、トラスツズマブおよび化学療法の併用療法は、トラスツズマブおよび化学療法の併用療法と比較して、OSおよびPFSを有意に延長しました。安全性解析対象例350例中341例(97.4%)(日本人44例中41例を含む)に副作用が認められ、主な副作用(20%以上)は、下痢166例(47.4%)、悪心154例(47.4%)、貧血110例(31.4%)、好中球数減少94例(26.9%)、食欲減退92例(26.3%)、血小板数減少91例(26.0%)、嘔吐88例(25.1%)、末梢性感覚ニューロパチー84例(24.0%)および手掌・足底発赤知覚不全症候群80例(22.9%)でした。
キイトルーダ®について
キイトルーダ®は、PD-1に対するヒト化モノクローナル抗体であり、活性化T細胞上のPD-1に結合することにより、がん細胞上のPD-L1及びPD-L2との結合を阻害することで、がん細胞による活性化T細胞の抑制を阻害します。その結果、抑制されていたT細胞が再度がん抗原を認識した際に、再活性化され、がん細胞を排除できるようになります。
キイトルーダ®は、2017年2月15日に国内で販売を開始しました。これまでに「悪性黒色腫」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」「非小細胞肺癌における術前・術後補助療法」「再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫」「根治切除不能な尿路上皮癌」「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」「腎細胞癌における術後補助療法」「再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌」「根治切除不能な進行・再発の食道癌」「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」「PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法」「進行・再発の子宮体癌」「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」「進行又は再発の子宮頸癌」「局所進行子宮頸癌」「再発又は難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫」「治癒切除不能な進行・再発の胃癌」「治癒切除不能な胆道癌」の効能又は効果について承認を取得しています。また、切除可能な局所進行頭頸部扁平上皮がんに対する周術期治療について申請中で、卵巣がんなどを対象とした後期臨床試験が進行中です。
以上
MSDについて
MSD(Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAが米国とカナダ以外の国と地域で事業を行う際に使用している名称)は、「最先端のサイエンスを駆使して、世界中の人々の生命を救い、生活を改善する」というパーパスのもとに結束し、130年以上にわたり、重要な医薬品やワクチンの開発を通して人類に希望をもたらしてきました。私たちは、世界トップクラスの研究開発型バイオ医薬品企業を目指し、人類や動物の疾患予防や治療に寄与する革新的なヘルスケア・ソリューションを提供するために、研究開発の最前線で活動しています。また、私たちは、多様かつ包括的な職場環境を醸成し、世界中の人々と地域社会に、安全で持続可能かつ健康な未来をもたらすため、責任ある経営を日々行っています。MSDの詳細については、弊社ウェブサイト(www.msd.co.jp)やFacebook、Instagram、YouTubeをご参照ください。
参考資料
抗悪性腫瘍剤「キイトルーダ®」