アストラゼネカとMSDのリムパーザ、日本においてアビラテロンとの併用療法でBRCA遺伝子変異陽性転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として承認取得

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2023/08/24 15:15 Asia/Tokyo

報道関係者各位

アストラゼネカ株式会社

MSD株式会社

 リムパーザの併用療法がアビラテロン単独との比較において、
病勢進行または死亡リスクを77%低減したことが示されたPROpel試験結果に基づく承認

新規ホルモン製剤との併用療法として、臨床的に意義のあるベネフィットを示し
本邦で承認された最初のPARP阻害剤

アストラゼネカ株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:堀井 貴史、以下、アストラゼネカ)とMSD株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:カイル・タトル、以下、MSD)は、2023年8月23日に、「BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌」の適応症において、リムパーザ®(一般名:オラパリブ、以下、リムパーザ)とアビラテロンおよびプレドニゾロンとの併用療法が承認されたことを発表しました。

前立腺がんは、日本では男性が罹患するがんにおいて最も多く、がんによる死亡原因として6番目に多いがんであり、2022年には96,400人が新たに診断され、13,300人が死亡したと推計されています1,2。男性ホルモンの作用を阻害するアンドロゲン除去療法を行ったにもかかわらず前立腺がんが増殖し、他の部位に転移した場合、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)と診断されます。mCRPCに対する治療法は増えているものの、予後は依然として不良であり、初回治療後にがんが進行した患者さんに対する治療選択肢は限られています。 これは、日本におけるmCRPCに対して効果的な新しい治療選択肢が緊急に必要であることを浮き彫りにしています2,3

このたびの承認は、BRCA遺伝子変異(BRCAm)を有するmCRPC患者さんにおいて、リムパーザとアビラテロンの併用療法が、アビラテロン単独療法と比較して、画像診断による無増悪生存期間(rPFS)(ハザード比[HR]0.23、95%信頼区間[CI]0.12-0.43)および全生存期間(OS)(HR 0.39、95% CI 0.16-0.86)のいずれにおいても臨床的に意義のある延長を示した第Ⅲ相PROpel試験のサブグループ解析に基づくものです。アビラテロン単独で治療された患者さんでは、rPFS中央値およびOS中央値が8.4ヵ月および23.6ヵ月であったのに対し、リムパーザとアビラテロンの併用療法で治療された患者さんでは増悪や死亡が少なく、それぞれ中央値の検出基準に未到達でした。

慶應義塾大学医学部 泌尿器科学教室 教授の大家 基嗣先生は次のように述べています。「PROpel試験のデータから、リムパーザとアビラテロンの併用によって、BRCAmのmCRPC患者さんにおける臨床的に意義のある転帰の改善が示されました。今回の承認により、日本の患者さんは、新たにBRCAmのmCRPCに対する標準治療として期待されるこの新しい併用療法のベネフィットを受けられるようになります」。

アストラゼネカの執行役員 研究開発本部長の大津 智子は次のように述べています。「リムパーザとアビラテロンの併用療法ではBRCAmのmCRPC患者さんにおける rPFSとOSの延長が示され、この併用療法に対する承認は、日本の患者さんにとって大きな前進であると感じております。アストラゼネカでは、前立腺がん患者さんのより良い治療生活の実現に努めており、今回の承認取得によって日本のBRCAm患者さんに待ち望まれてきた、より効果が期待できる治療選択肢を新たに提供できることを嬉しく思います」。

MSDの代表取締役上級副社長 グローバル研究開発本部長の白沢 博満は次のように述べています。「前立腺がんは日本の男性がかかるがんで最も多く、転移性に進行した患者さんの治療選択肢は限られています。MSDは、BRCAmのmCRPCに対する新たな治療選択肢を提供することで、これまで以上に患者さんと医療従事者のニーズに応えていきたいと考えています」。

PROpel試験におけるリムパーザとアビラテロン併用療法の安全性および忍容性は、過去の臨床試験や個々の医薬品の既知のプロファイルと一貫していました。

リムパーザはPROpel試験の結果に基づき、EUおよび他の数カ国において、アビラテロンおよびprednisoneまたはプレドニゾロンの併用療法で、化学療法が臨床的に適応とならないmCRPC患者さんに対する治療として承認されています。さらに、米国においては、この併用療法はBRCAmまたは変異陽性が疑われるmCRPCの患者さんの治療としても承認されています。

なお、日本においてはEU、中国と同様にリムパーザは第Ⅲ相PROfound試験の結果に基づいて、新規ホルモン製剤治療を含む前治療後に進行したBRCAmのmCRPC患者さんに対する治療としても承認されています。

 

以上

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前立腺がんについて

前立腺がんは、男性では世界で2番目に多く診断されるがんであり、男性のがんによる5番目の死因です。2020年には、約140万人が新たに診断され、約37万5000人が死亡しました4,5。また、日本においても、2022年に新たに96,400人が診断され、13,300人が死亡したと推計されています1,2。mCRPC患者さんの全生存期間は、臨床試験では約3年で、実臨床ではさらに短くなることが報告されています6。mCRPC患者さんの約半数は、積極的治療として一次治療しか受けられず、後治療の効果は低下します7-12

 

転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)について

転移性前立腺がんは死亡率の高いがんです13。前立腺がんの進展は多くの場合、テストステロンを含むアンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンにより促進されます14

男性ホルモンの作用を阻害するアンドロゲン除去療法を行ったにもかかわらず、前立腺がんが増殖し、他の部位に転移した場合、mCRPCと診断されます15。進行性前立腺がんの患者さんの約10~20%は5年以内に去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)へと進行し、そのうち84%以上の患者さんはCRPC診断時に転移を有しています16。また、CRPC診断時に転移のない患者さんであっても、そのうちの33%は2年以内に転移が確認されます16

タキサン系抗がん剤と新規ホルモン製剤(NHA)による治療により、この10年間でmCRPC治療は進歩していますが、この集団におけるアンメットニーズは高いと考えられます15-17

 

PROpel試験について

PROpel試験は、mCRPCと診断された後に化学療法およびNHAによる治療歴のない患者さんを対象に、アビラテロンおよびprednisoneまたはプレドニゾロンに加えてリムパーザを投与した場合の有効性、安全性、忍容性をプラセボ、アビラテロンおよびprednisoneまたはプレドニゾロンとの併用と比較検討する無作為化二重盲検多施設共同第Ⅲ相試験です。

主要評価項目はrPFSであり、副次評価項目にはOS、二次進行または死亡までの期間、および初回の後治療までの期間が含まれます。2021年9月、事前に規定した中間解析において、独立データモニタリング委員会は、PROpel試験がrPFSの主要評価項目を満たしたと結論付けました。さらなる情報については、ClinicalTrials.gov.をご覧ください。

 

リムパーザについて

リムパーザ(一般名:オラパリブ)はファーストインクラスのPARP阻害剤であり、BRCA1および/またはBRCA2遺伝子変異などの相同組換え修復(HRR)の欠損を有する、あるいは他の薬剤(NHAなど)によりHRRの欠損が誘導される細胞または腫瘍のDNA損傷応答(DDR)を阻害する最初の標的治療薬です。

リムパーザによるPARP阻害により、DNAの一本鎖切断部位上にPARPがトラップされ、複製フォークの失速と崩壊が起こり、DNAの二本鎖切断が形成されてがん細胞死をもたらします。

リムパーザは現在、白金製剤感受性再発卵巣がんの維持療法、BRCAmおよび相同組換え修復欠損(HRD)を有する進行卵巣がんの初回治療後の維持療法としての単独療法およびベバシズマブとの併用療法を含め、様々ながん種を対象に多くの国で承認されています。さらに、生殖細胞系列BRCAm、HER2陰性転移性乳がん(EUおよび日本では局所進行乳がんを含む)、生殖細胞系列BRCAm、HER2陰性高リスク早期乳がん(日本ではすべてのBRCAm、HER2陰性高リスク早期乳がんを含む)、生殖細胞系列BRCAm転移性膵がん、および化学療法が臨床的に適応とならない転移性去勢抵抗性前立腺がんのアビラテロンとの併用療法(EU)、米国においては、BRCAmのmCRPCおよびNHA治療による前治療のあと進行したHRR関連遺伝子変異陽性転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)(EUおよび日本ではBRCAmのみ)に対して単剤療法が承認されています。中国においては、リムパーザはBRCAm mCRPCの治療薬、ならびにBRCAm進行卵巣がんにおける初回治療後の維持療法、およびHRDを有する進行卵巣がんにおけるベバシズマブとの併用療法としての初回治療後の維持療法として承認されています。

アストラゼネカとMSDにより共同で開発、商業化が行われているリムパーザは、全世界で75,000人を超える患者さんの治療に使用されています。リムパーザには幅広い臨床試験開発プログラムがあり、アストラゼネカとMSDは共同で、本剤が様々ながん種にわたる複数のPARP依存性腫瘍に対し、単剤療法および併用療法としてどのように影響するのか理解を進めています。リムパーザは、がん細胞におけるDDRメカニズムを標的としたアストラゼネカの業界トップクラスの新薬候補ポートフォリオの基盤となる薬剤です。

 

アストラゼネカとMSDのがん領域における戦略的提携について

2017年7月、英国アストラゼネカ社とMerck & Co., Inc., Rahway, NJ., USA(北米およびカナダ以外ではMSD)は、世界初のPARP阻害剤であるリムパーザおよび、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤であるコセルゴについて、複数のがん種において共同開発・商業化するがん領域における世界的な戦略的提携を発表しました。両社は、リムパーザおよびコセルゴを他の可能性のある新薬との併用療法および単剤療法として共同開発します。なお、リムパーザおよびコセルゴと、各々の会社が保有するPD-L1またはPD-1阻害薬との併用療法は各々の会社で開発します。

 

アストラゼネカにおけるオンコロジー領域について

アストラゼネカは、あらゆる種類のがんに対して治療法を提供するという高い目標を掲げ、がんとその発見にいたるまでの複雑さを科学に基づいて理解し、患者さんの人生を変革する医薬品の開発および提供を通じて、オンコロジー領域の変革をけん引していきます。

アストラゼネカは治療困難ながん種に注力しています。当社は持続的なイノベーションにより、医療活動および患者さんの医療経験を一変させる可能性のある、製薬業界でもっとも多様なポートフォリオと開発パイプラインを構築しています。

アストラゼネカはがん治療のパラダイムを再定義し、将来的にはがんによる死亡をなくすことをビジョンに掲げています。

 

アストラゼネカについて

アストラゼネカは、サイエンス志向のグローバルなバイオ医薬品企業であり、主にオンコロジー領域、希少疾患領域、循環器・腎・代謝疾患、呼吸器・免疫疾患からなるバイオファーマ領域において、医療用医薬品の創薬、開発、製造およびマーケティング・営業活動に従事しています。英国ケンブリッジを本拠地として、当社は100カ国以上で事業を展開しており、その革新的な医薬品は世界中で多くの患者さんに使用されています。詳細についてはhttps ://www.astrazeneca.comまたは、ツイッター@AstraZeneca(英語のみ)をフォローしてご覧ください。

日本においては、主にオンコロジー、循環器・腎・代謝、呼吸器・免疫疾患およびワクチン・免疫療法を重点領域として患者さんの健康と医療の発展への更なる貢献を果たすべく活動しています。アストラゼネカ株式会社についてはhttps ://www.astrazeneca.co.jp/をご覧ください。フェイスブックAstraZeneca.JapanとインスタグラムAstraZeneca / アストラゼネカもフォローしてご覧ください。

 

MSDについて

MSD(Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA.が米国とカナダ以外の国と地域で事業を行う際に使用している名称)は、最先端のサイエンスを駆使して、世界中の人々の生命を救い、生活を改善するというパーパスのもとに結束しています。130年以上にわたり、重要な医薬品やワクチンの発見を通して人類に希望をもたらしてきました。私たちは、世界トップクラスの研究開発型バイオ医薬品企業を目指し、人類や動物の疾患予防や治療に寄与する革新的なヘルスケア・ソリューションを提供するために、研究開発の最前線で活動しています。私たちは、多様かつ包括的な職場環境を醸成し、世界中の人々と地域社会に、安全で持続可能かつ健康な未来をもたらすため、責任ある経営を日々続けています。MSDの詳細については、弊社ウェブサイト(www.msd.co.jp)やFacebookYouTubeをご参照ください。

 

References

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  2. Yasuoka S, et al. Risk Factors for Poor Survival in Metastatic Castration-resistant Prostate Cancer Treated With Cabazitaxel in Japan. Anticancer Research. 2019;39:(10) 5803-5809.
  3. Clarke N, et al. Abiraterone and Olaparib for Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer. NEJM Evid. 2022;1(9).
  4. Rawla P. Epidemiology of Prostate Cancer. World J Oncol. 2019;10(2):63-89.
  5. Cancer.Org. Key Statistics For Prostate Cancer. Available at https://www.cancer.org/cancer/prostate-cancer/about/key-statistics.html. Accessed July 2023.
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  12. Miller K, et al. The Phase 3 COU-AA-302 Study of Abiraterone Acetate Plus Prednisone in Men with Chemotherapy-Naïve Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer: Stratified Analysis Based on Pain, Prostate-Specific Antigen, and Gleason Score. Eur Urol. 2018;74(1):17-23.
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  16. UroToday. What is Changing in Advanced Prostate Cancer?
  17. Liu J, et al. Second-Line Hormonal Therapy for the Management of Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer: A Real-World Data Study Using a Claims Database. Sci Rep. 2020;10(1):4240.
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