MSD株式会社 経口低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)阻害剤「ウェリレグ®錠40mg」の国内製造販売承認を取得-フォン・ヒッペル・リンドウ病関連腫瘍--がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌-
2025/06/24 15:00 JST
報道関係各位
MSD株式会社
MSD株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:カイル・タトル、以下 「MSD」)は、本日、経口低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)阻害剤「ウェリレグ®錠40mg」(一般名:ベルズチファン、以下、ウェリレグ®)について「フォン・ヒッペル・リンドウ病関連腫瘍」および「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」を適応として国内製造販売承認を取得しましたので、お知らせいたします。
ウェリレグ®は、経口投与可能な新しい作用機序の低分子HIF-2α阻害剤です。がん細胞においてVHL蛋白質の機能が喪失している状態において、ベルズチファンは、HIF-2αとHIF-1βのヘテロ二量体形成を選択的に阻害します。その結果、血管新生・増殖および腫瘍代謝に関連する低酸素下で誘導される遺伝子の転写を阻害することで抗腫瘍効果を示します。
フォン・ヒッペル・リンドウ病関連腫瘍に対する承認について
フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病は、VHL遺伝子の変異によってHIF-2αが過剰発現し、腫瘍が発生する難治性の希少疾患で、日本の推定患者数は600~1,000人です*1。発生する主な腫瘍は、中枢神経系(小脳、延髄、脊髄)血管芽腫、網膜血管腫、腎細胞がん(RCC)、腎嚢胞、褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)、膵神経内分泌腫瘍、膵嚢胞、精巣上体嚢胞腺腫、子宮広間膜嚢胞腺腫、内リンパ嚢腫瘍で、いずれも若年で発症し、複数の部位に同時に発生する(多発性)、生涯にわたって発症を繰り返す(再発性)という特徴があります*2-5。腫瘍の発生部位によって、多血症、高血圧、視力障害、運動障害、膀胱直腸障害、腎不全、不妊症などの合併症が現れることがあります。治療方法には腫瘍の摘出手術や放射線治療などがありますが、手術の侵襲に伴う障害が発生する場合や頻回の手術が必要になる場合があることなど患者さんの生活の質(QOL)への影響は大きく、新たな治療法が望まれていました*1,2。ウェリレグ®は、VHL病に対する全身療法として初めての薬剤であり、2024年2月にVHL病関連腫瘍について厚生労働省より開発中に希少疾病用医薬品の指定を受けて優先審査の対象とされ、このたびの承認にいたりました。
ウェリレグ®のVHL病関連腫瘍に対する「効能又は効果」は、主に、即時手術を必要としないVHL病関連腎細胞がん患者を対象とした海外第2相試験LITESPARK-004および前治療歴を有する進行RCC患者を対象とした国際共同第3相試験LITESPARK-005のデータに基づいています。
*1 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センター「フォンヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)病」
*2 フォン・ヒッペル・リンドウ病における実態調査・診療体制構築とQOL向上のための総合的研究班「フォン・ヒッペル・リンドウ病診療の手引き(2024年版)」
*3 Maher ER, Kaelin WG, Jr. von Hippel-Lindau disease. Medicine. 1997;76(6):381-3
*4 Lonser RR, Glenn GM, Walther M, et al. von Hippel-Lindau disease. Lancet. 2003;361 (9374):2059-2067.
*5 Maher ER, Neumann HP, Richard S. von Hippel-Lindau disease: a clinical and scientific review. Eur J Hum Genet. 2011;19(6):617-623.
がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌に対する承認について
腎細胞がん(RCC)は腎臓がんのうち最も多くみられる種類のがんで、腎臓がんの約9割を占めています*6。2019年には約21,000人が新たに腎臓がん(腎盂がん除く)と診断され*7、男性は女性の約2倍の頻度で発症するとされています。RCCは初期では自覚症状がほとんどないため、小さいうちに発見できるのは健康診断や他の病気が疑われたために行う検査などで偶然発見されるものがほとんどです。がんが進行した場合、血尿や背中の痛み、腹部のしこりなどの症状が現れます*8。手術でがんを切除することが難しい場合は、薬物療法を行うこともあり、淡明細胞型のRCCでは主に免疫チェックポイント阻害剤(PD-1またはPD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤)や分子標的薬(VEGFR-TKI)を用います*9。しかしながら、それらによる治療後に進行した患者さんに対し、臨床試験で有効性、安全性が検証された治療方法が無かったことから、新たな治療選択肢が求められていました。ウェリレグ®はHIF-2αを阻害することによって、PD-1またはPD-L1阻害剤とVEGFR-TKIによる治療後に進行したRCCにおいても抗腫瘍効果を示す初めての薬剤となります。
ウェリレグ®のRCCに対する「効能又は効果」は、前治療歴を有する進行RCC患者を対象とした国際共同第3相LITESPARK-005試験のデータに基づいています。
当社の代表取締役上級副社長執行役員、グローバル研究開発本部長の白沢博満は、「VHL病という、この希少な遺伝性疾患に由来するVHL病関連腫瘍の患者さんのために承認された全身療法は、これまでありませんでした。また、近年、進行腎細胞がんの治療が進歩するなかで、PD-1またはPD-L1阻害剤とVEGFR-TKIによる治療後に進行した患者さんを特に対象として承認された治療選択肢はありませんでした。このたびのウェリレグ®の承認により、日本のVHL病関連腫瘍および腎細胞がんの患者さんに、全く新しい作用機序による治療選択肢の提供を通じて貢献できることを嬉しく思います」と述べています。
MSDは、腎細胞がんを含む重点分野と位置付けるがん領域で、今後も患者さんと医療従事者のニーズにお応えできるよう努めるとともに、VHL病患者さんとご家族に寄り添い、よりよい未来に貢献できるよう全力で取り組んでまいります。
*6 NCCN clinical practice guidelines in oncology: kidney cancer, version 1.2022; National Comprehensive Cancer Network (NCCN); 2021.
*7 国立がん研究センターがん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん)患者数(がん統計)」
*8 国立がん研究センターがん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん)について」
*9 日本泌尿器科学会 編. 腎癌診療ガイドライン2017年版. メディカルレビュー社, 2017. 2022年update.(2022年4月)
LITESPARK-004試験について
ウェリレグ®のVHL病関連腫瘍に対する承認は、後述するLITESPARK-005試験に加えて、一つ以上の測定可能な限局性腎細胞がん病変を有し、全身性がん化学療法歴がなく、即時手術を必要としないVHL病患者61例*10を対象とした、多施設共同海外第2相試験LITESPARK-004の試験データ等に基づいています。主要評価項目であるVHL病関連の腎細胞がん病変に対する奏効率(ORR)[RECISTガイドライン1.1版に基づく中央判定による完全奏効(CR)または部分奏効(PR)]は、63.9%[90%信頼区間(CI), 52.6- 74,2]でした。安全性については、安全性解析対象例61例中61例(100.0%)に副作用が認められ、主な副作用(10%以上)は、貧血54例(88.5%)、疲労39例(63.9%)、悪心15例(24.6%)、浮動性めまい15例(24.6%)、呼吸困難11例(18.0%)、頭痛11例(18.0%)、筋肉痛8例(13.1%)およびALT増加7例(11.5%)でした。
*10 腎細胞癌以外の併存病変を有する患者は、中枢神経系血管芽腫50例、膵神経内分泌腫瘍22例、網膜血管腫17例、精巣上体嚢胞腺腫10例、褐色細胞腫・パラガングリオーマ3例、内リンパ嚢腫瘍1例であった。
LITESPARK-005試験について
ウェリレグ®の腎細胞がん(RCC)に対する承認は、PD-1またはPD-L1阻害剤およびVEGFR -TKIによる治療歴のある根治切除不能または転移性の淡明細胞型腎細胞がん患者746例(日本人44例を含む)を対象に、ウェリレグ®の有効性および安全性をエベロリムスを対照として検討された国際共同第3相試験LITESPARK-005のデータに基づいています。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)とされ、ウェリレグ®群はエベロリムス群と比較して統計学的に有意なPFSの延長を示しました。PFSの中央値は、ウェリレグ®群で5.6カ月(95% CI, 3.9-7.0)、エベロリムス群で5.6カ月(95% CI, 4.8-5.8)で、ウェリレグ®はエベロリムスと比較して、対象患者さんにおける疾患進行または死亡のリスクが25%(HR=0.75 [95% CI, 0.63-0.90]; p=0.00077)低下しました。安全性については、安全性解析対象例372例中331例(89.0%)(日本人20例中20例を含む)に副作用が認められ、主な副作用(10%以上)は、貧血267例(71.8%)、疲労79例(21.2%)、低酸素症44例(11.8%)および悪心39例(10.5%)でした。
以上
MSDについて
MSD(Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAが米国とカナダ以外の国と地域で事業を行う際に使用している名称)は、「最先端のサイエンスを駆使して、世界中の人々の生命を救い、生活を改善する」というパーパスのもとに結束し、130年以上にわたり、重要な医薬品やワクチンの開発を通して人類に希望をもたらしてきました。私たちは、世界トップクラスの研究開発型バイオ医薬品企業を目指し、人類や動物の疾患予防や治療に寄与する革新的なヘルスケア・ソリューションを提供するために、研究開発の最前線で活動しています。また、私たちは、多様かつ包括的な職場環境を醸成し、世界中の人々と地域社会に安全で持続可能かつ健康な未来をもたらすため、責任ある経営を日々行っています。MSDの詳細については、弊社ウェブサイト(www.msd.co.jp)やFacebook、Instagram、YouTubeをご参照ください。
参考資料
抗悪性腫瘍剤 HIF-2α阻害剤「ウェリレグ®」